
銃を手にした皆さんが学ぶべき、そして最も重要なのが「実包(じっぽう)」、特に「散弾実包」の知識です。「獲物によってどの弾を選べばいいのか」「構造をよくわかっていないので間違った実包を購入してしまいそう」―そんな不安を抱えてはいませんか。
実包とは、火薬、雷管、弾丸などが精密に組み合わされた「火工品」です。その構造や用途、そして銃との互換性を正しく理解せずに使用することは、獲物を逃すだけでなく、重大な事故にも繋がりかねません。
そこで今回は、銃砲店の専門家として、狩猟初心者が獲物を確実に仕留めるために不可欠な、「散弾実包」の基本的な構造から、用途別の選び方、安全な取り扱いまで、丁寧に解説していきます。
散弾における実包の基本構成と各役割

散弾実包は、獲物を仕留めるために必要な部品がすべて一つにパッケージングされた「完成品」です。
その主な構成要素は「薬莢」「雷管」「火薬」「ワッズ」「弾丸(散弾粒)」であり、それぞれが発射の瞬間に精密な役割を果たします。
初心者のうちは「弾」とひとくくりにしがちですが、なぜその構造になっているかを知ることは、用途別の適切な実包選びのためにも重要です。
ここでは、各部品の役割を詳しくみていきましょう。
薬莢
薬莢は、散弾実包の「容器」です。発射に必要な火薬やワッズを適切な位置に保持し、発射時には銃の薬室(チャンバー)内で高圧ガスが漏れないよう密閉する、極めて重要な役割を担います。
もし薬莢がなければ、火薬や弾丸を銃に装填することすらできません。また、発射の瞬間に発生する爆発的な燃焼ガスを、薬室内部に一時的に封じ込め、そのエネルギーすべてを弾丸を前方に押し出す力に変換する必要があります。
薬莢は発射のエネルギーを受け止め、銃と実包を繋ぐ精密部品です。変形や亀裂がある薬莢は、ガス漏れや破裂の原因となるため絶対に使用してはいけません。
ワッズ
ワッズは、「火薬」と「弾丸」の間に位置する、仕切り役の部品です。
その役割は、①発射ガスの漏れを防ぐ「ガスシール」②弾丸を衝撃から守る「クッション」③弾丸を薬莢から銃口まで導く「カップ(容器)」の三役です。
①ガスシール部(後方)
お椀を逆さにしたような形状で、発射ガス圧を受けるとスカートが広がり、銃身内部に密着します。これによりガス漏れを防ぎ、すべてのエネルギーを前方に伝えます。
②クッション部(中間)
ジャバラ状の構造になっており、発射時の急激な衝撃を吸収し、散弾粒の変形を防ぎます。
③ショットカップ部(前方)
散弾粒を包み込むカップ状になっています。これにより、散弾粒が銃身内部でこすれて変形するのを防ぎます。銃口から飛び出した後、空気抵抗でワッズだけが分離し、散弾粒が飛んでいきます。
現代のワッズの多くは、プラスチック製でカップ型をしています。
弾薬
ここでいう「弾薬」とは、散弾実包の構成要素としての「弾丸(だんがん)」、すなわち獲物に直接ダメージを与える金属の粒(散弾粒)や、一発の大きな塊(スラッグ弾)のことを指します。
狩猟の目的は、この弾丸を獲物の急所に確実に送り込むことです。獲物の種類や、距離によって、使用すべき弾丸の「種類」「大きさ(号数)」「素材」が変わります。
- 散弾粒(ショット)
最も一般的な弾丸で、カモやキジなどの鳥猟、クレー射撃に使われます。鉛や鉄、タングステンなどで作られた無数の小さな球です。
世界的に、粒の直径によって「号数」が決められていて、数字が小さいほど粒は大きくなります。7.5号、9号はクレー射撃用で非常に小さい粒で、4号、3号はカモ猟に適しています。
- バックショット
散弾の中でも特に大粒のもの(00バック)を指し、シカなどの大型獣猟に使われることもありますが、日本ではスラッグ弾が主流です。
- スラッグ弾
シカやイノシシ猟に使われる散弾銃用の「一発弾」です。散弾とは比較にならない威力と射程を持ちます。
雷管
雷管は、散弾実包の「点火装置」です。銃の撃針によって叩かれると、衝撃で「起爆」し、その火花で主火薬(発射薬)に点火する役割を持ちます。
雷管は、薬莢の金属基部(ロンデル)の真ん中にはめ込まれた、小さな金属製のカップです。その内部には、衝撃を受けて炸裂する起爆薬が封入されています。
雷管は非常に敏感な部品であり、湿気ったり、古い油が付着したりすると「不発」の原因となります。
装弾
「装弾」とは、ここまで解説してきた「薬莢」「雷管」「火薬」「ワッズ」「弾丸」のすべてが一体となり、発射可能な状態になった「実包」そのものを指す言葉です。
初心者のうちは「弾(たま)」と呼ぶことが多いですが、専門的には「実包」または「装弾」と呼びます。
これは、まだ発射されていない「完成品」の弾薬を指す用語です。ちなみに、発射後に銃から排出される空の薬莢は「空薬莢(からやっきょう)」と呼んで区別します。
散弾実包とライフル実包の違い

散弾実包とライフル実包の最大の違いは、「発射する弾丸の形状と数」と、それに伴う「有効射程距離と法律上の扱い」です。
散弾は「多数の粒」を「近距離」に、ライフルは「一発の弾丸」を「遠距離」に飛ばすことに特化しています。
この違いは、それぞれの銃の構造と狩猟対象から来ています。
散弾銃は、動きの速い鳥などを「面」で捉えるため、弾が拡散します。ライフル銃は、遠距離にいる大型獣の急所を「点」で正確に狙うため、弾丸に回転を与えて直進安定性を高めます。
構造
散弾実包
主にプラスチック製の薬莢。内部に「ワッズ」があり、無数の「散弾粒」が入っている。
ライフル実包
ほぼ全てが真鍮など金属製の薬莢。薬莢の先端に「一発の弾丸」が直接固定されており、ワッズは存在しない。
性能
散弾実包
有効射程は散弾で約40m、スラッグ弾で70〜100m(最大射程700m)。弾は拡散するか、大きく落下する。
ライフル実包
狩猟用ライフルなら1,000m以上先まで届きますが、狩猟では1km以上の長距離で狙撃することはほとんど無く、北海道の広い猟場でも100m〜400mで射撃することがほとんどです。
用途別の散弾実包の選び方

鳥猟向けは「散弾実包」
カモ、キジ、ヤマドリなどの鳥猟には、標的に対して「面」で弾幕を張ることができる「散弾」を使用します。重要なのは、獲物の大きさと距離に適した「号数」を選ぶことです。
小さすぎる弾では、獲物に命中しても十分なダメージを与えられず、逃がしてしまいます。逆に大きすぎる弾では、弾の数が少なすぎて弾幕が薄くなり、動きの速い鳥には命中しにくくなります。
号数の選び方
- ヒヨドリ、スズメなど小型の鳥: 7.5号~9号
- カモ、キジ、ヤマドリなど中型の鳥: 3号~5号
- カラス、ウサギなど: 3号~4号
一般的に、数字が小さいほど粒は大きく、威力も強くなります。
素材の選び方
- 鉛弾: 伝統的で威力も高いですが、環境への影響から、北海道や特定の猟場では使用が禁止されています。
- 非鉛弾(鉄など): 鉛弾が使用禁止の猟場で必須。鉄(スチール)弾は鉛より軽いため、号数を1〜2番手上げるなどの調整が推奨されます。当然鉛よりも素材自体が硬いので、非鉛散弾はフルチョークは銃身先端を痛めてしまうことから使用不可、半絞り(モデ)以降での使用がお勧めです。
初心者の場合、まずは銃砲店で「〇〇(獲物の名前)を獲りたいのですが」と相談するのが確実です。地域のルールも合わせて確認し、最適な号数と素材を選んでください。
シカなどの大型獣向けはスラッグ弾
イノシシやシカといった大型獣の猟には、散弾銃しか持てないハンター(所持歴10年未満)の場合、一発の大きな弾丸である「スラッグ弾」を使用します。
これは散弾実包の一種ですが、威力と射程は散弾粒とは全く異なります。
鳥猟用の散弾粒では、大型獣の分厚い皮膚や筋肉、骨を貫通できず、致命傷を与えることができません。確実に獲物を仕留めるためには、一撃で大きなダメージを与えるスラッグ弾が必要です。
スラッグ弾を選ぶ際は、まず自分の銃が「滑腔銃身」なのか「ハーフライフル銃身」なのかを確認してください。その上で、数種類のスラッグ弾を射撃場で撃ち比べ、自分の銃で最も集弾性が良い弾を見つける作業が不可欠です。
クレー射撃向けの選び方

クレー射撃(トラップ射撃、スキート射撃)は、狩猟とは異なり、ルールで厳密に使用できる実包が定められています。基本的には「12番径」「弾の号数は7.5号または9号」「弾の重量は24g(または28g)」という規格の弾を選びます。
クレー射撃は、レギュレーション(規則)の範囲内で技術を競うスポーツです。安全性の確保と公平性の担保のため、威力が強すぎる狩猟用の大粒散弾やスラッグ弾の使用は勿論不可、使用する散弾実包も団体が定めた認定弾の中から使用することと、大会によっては厳しいレギュレーションがあります。
トラップ射撃
遠ざかっていくクレーを撃つため、弾の粒がやや大きく(7.5号)、集弾性が良い(チョークが絞られている)セッティングが好まれます。弾速が速い(High Speed)タイプも人気です。
スキート射撃
近距離で横切るクレーを撃つため、弾の粒が小さく(9号)、弾が広がりやすい(チョークが緩い)セッティングが好まれます。
弾の重量(装薬量)
かつては28gが主流でしたが、現在は反動が少なく扱いやすい24gが国内の公式競技の標準となっています。
クレー射撃用の実包は、特別狩猟用とは明確に区別されてません。射撃場で練習する場合は、必ず「クレー射撃向けの装弾(利用する射撃場で使用できる号数)」であることを確認し、射撃場のルールに従ってください。射撃場で使用できない号数の実包は勿論使用(発砲)できません。
散弾実包でよくあるトラブルと対処法

発火しない
引き金を引いたのに「カチッ」という撃針の音だけで発火しない、これが「不発(ミスファイア)」です。
この際、最も重要な対処法は「最低10秒~30秒間、銃口を安全な方向(的や空)に向けたまま保持し続けること」です。
不発の原因は、雷管の不良や、銃の撃針の不具合が考えられます。しかし、まれに引き金を引いてからわずかに遅れて発火する現象が起こる可能性があります。
不発発生時の対処手順
- 「カチッ」(不発発生)
- そのまま保持: すぐに銃を開放(脱包)しようとせず、銃口を絶対に安全な方向に向けたまま、最低10秒(できれば30秒)間待ちます。
- 安全確認: 10秒以上経過し、遅発の危険がないと判断します。
- 脱包: 銃口を安全な方向に向けたまま、ゆっくりと機関部を開放し、不発だった実包を取り出します。
- 実包の確認: 取り出した実包の雷管に、撃針の痕(凹み)がしっかり付いているか確認します。
- 痕が弱い場合:銃の撃針スプリングのヘタリなど、銃側の不具合。
- 痕が強い場合:雷管の不良など、実包側の不具合。
- 不発弾の処理: その不発弾は再装填せず、安全に持ち帰り、銃砲店に処分を依頼します。
不発時に「あれ?」と思ってすぐに銃を開放し、薬室を覗き込む行為は、遅発が起きた場合に顔面で弾を受けることになり、大変危険です。正しい手順に沿った安全確認を徹底してください。
排莢不良(はいきょうふりょう)
排莢不良とは、発射後の「空薬莢」が、銃から正常に排出されないトラブル(ジャム)のことです。
特に自動銃で多く、原因の多くは「実包と銃の相性」「銃の清掃不足」「射手の構え方」にあります。
自動銃は、発射ガスや反動を利用して、自動で空薬莢を排出し、次の弾を装填します。この「自動機構」を正常に作動させるためのエネルギーが不足したり、部品の動きが渋くなったりすると、排莢不良が発生します。
原因① 実包のパワー不足
自動銃は、一定以上の反動がないと作動しません。クレー射撃用の24g装弾のような軽い弾を、狩猟用の重い弾に合わせて設計された自動銃で使うと、反動不足で薬莢が最後まで排出されないことがあります。発射ガスの圧力でシステムを動かしている。と思いがちですが、発射ガスはさほど強い圧力(システムを機能させるという点で)ではなく、ガスが発生した際に銃の内部機構のロッキングと呼ばれる機構を解除するためにガス圧を利用します。ロッキングを解除した後、実包を撃った反動を利用してボルトを後退させ空薬莢を排出、ボルトが戻る際に次弾装填(弾倉に装弾が入っている場合)します。よって基本構造の古い自動銃(24グラム装弾設定以前に発売した銃)はそもそも24グラムに対応できる構造を有していない為、当然の如く作動不良を起こします。
原因② 銃の清掃不足
発射ガスの通り道(ガスポート)や、ボルト(遊底)のレールに火薬の燃えカスや汚れが溜まると、部品の動きが渋くなり、排莢不良を起こします。ガスオート式の自動銃は前述の通り、ガス圧を一部利用します。発射の度ガスが規定の部位に回りますので撃てば撃つほど汚れます。汚れれば汚れるほどゴミが溜まり動きが渋くなります。後述のイナーシャ式はガスを利用せずシステムを動かしますので、ガスオートほど汚れに対し敏感ではございません。
原因③ 射手の構え(自動銃)
ガス圧式も同様ですが、特に反動利用式(イナーシャ式)の自動銃の場合、射手が銃を肩にしっかり固定していないと、銃が反動をうまく受け止められず、作動不良を起こすことがあります。
排莢不良が多発する場合は、まず銃を徹底的に清掃してください。それでも改善しない場合は、実包の種類を変えてみるか銃砲店に持ち込んで銃の機関部を点検してもらうことをおすすめします。
まとめ

散弾実包は、狩猟や射撃の成果を左右する重要な道具であると同時に、一歩間違えれば重大な事故に繋がる「火工品」です。事故を防ぐためには、その仕組みをよく理解し、用途や規格に合わせて適切に使うことが欠かせません。
不適切な実包の使用は、獲物を苦しめる半矢になるだけでなく、あなた自身を危険にさらすことになります。
実包に関する知識は、一朝一夕には身につきません。この記事を参考に、分からないことや不安なことがあれば、決して自己判断せず、専門の銃砲店、または経験豊富な先輩ハンターに必ず相談するようにしてください。
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