
狩猟の最大の目的は「獲物を確実に、そして苦しませずに仕留めること」です。その成否を分ける重要な要素が、銃から発射される「弾丸」とその先端部分である「弾頭」にあります。
しかし、弾丸や弾頭の役割や構造の違いを理解せずに狩猟を行うことは、獲物を仕留めきれず、山に返してしまう半矢のリスクを格段に高めてしまいます。
そこで今回は、初心者が将来的に扱うことになる可能性があるライフル銃の「弾頭」の基本構造から、目的別の選び方、法律上の注意点まで、体系的に解説します。
銃の弾頭とは何か?基本構造と用語解説

銃の弾頭について、基本構造と用語解説を交えながらご紹介します。
弾頭・弾丸・薬莢・雷管 の違い
狩猟初心者がまず整理すべき用語として、「弾頭」は「弾丸」の一部であり、「弾丸」は「実包(カートリッジ)」の構成部品の一つです。
これらの用語を混同すると、銃砲店での注文時や、ベテランハンターとの会話で誤解が生じるだけでなく、法律(銃刀法)上の「部品」としての扱いも異なるため、正確に理解しておく必要があります。
ライフル実包は主に4つの部品で構成されています。
- 薬莢(やっきょう)
火薬を詰め、弾頭を先端に固定する「容器」。主に真鍮(しんちゅう)製。
- 雷管(らいかん)
薬莢の底部にはめ込まれ、撃針の衝撃で火薬に点火する「点火装置」。
- 火薬(かやく)
薬莢内部に詰められた、弾頭を撃ち出すための「エネルギー源」。
- 弾丸(だんがん)
火薬のエネルギーで発射され、銃口から飛び出し、獲物に向かって飛んでいく金属の塊。 そして、この「弾丸」の「先端部分の形状や構造」のことを、「弾頭(だんとう)」と呼びます。
一般的に「弾(たま)」と呼ぶものには、完成品の「実包」を指す場合と、飛んでいく「弾丸」を指す場合があります。本記事では、獲物に命中した際の性能を左右する「弾頭」に焦点を当てます。
弾頭の基本的な構造と役割
ライフル銃用の「弾頭」の基本的な構造は、硬い金属のジャケット(被甲)と、その内部にある柔らかい鉛などの芯(コア)で構成されています。
この構造の最大の役割は、「①高速飛行に耐え」「②獲物に着弾した際に変形(マッシュルーミング)を起こす」ことです。
ライフル弾は音速の2倍以上(秒速800m〜1000m)という超高速で発射されます。もし弾丸が柔らかい鉛のコアだけでは、発射時の熱と圧力、そして銃身内の溝(ライフリング)との摩擦で溶けたり、変形したりしてしまい、真っ直ぐ飛びません。
そのため、銅合金などの硬い金属(ジャケット)で覆う必要があります。
狩猟でよく使われる弾頭の種類と特徴

獲物を逃がしにくい代表的弾頭ホローポイント
ホローポイント弾頭は、その名の通り弾頭の先端が「くぼみ(Hollow)」になっている構造が特徴です。これは、獲物に着弾した際の「確実な拡張性能」を最優先した設計であり、獲物を逃しにくい狩猟用弾頭です。
ホローポイント弾頭が獲物に着弾した瞬間、この「くぼみ」に体液や組織が流れ込み、内部から弾頭を押し広げるように強烈な圧力が発生します。この力によって、弾頭の先端部が外側にめくれ上がるようにして、一瞬でキノコ状に変形します。
この変形した弾頭が、弾丸のエネルギーを効率よく体内に伝達し、獲物に致命的なダメージを与えます。また、弾頭が体内貫通しにくくなるので、弾丸の持つ全エネルギーを獲物に渡し切る効果もあります。
ホローポイントは、着弾と同時に素早く拡張し、獲物の体内で最大のダメージを生み出すことを目的とした狩猟用弾頭です。
ソフトポイント・セミジャケテッドの特徴
ソフトポイント弾頭は、弾頭の先端部分だけ、内部の柔らかいコアが露出した構造の弾頭です。着弾時の素早い拡張性能と、ある程度の貫通性能を両立させた、最も信頼性の高い狩猟用弾頭の一つです。
この構造の目的もホローポイントと同様に、着弾時の確実な拡張にあります。先端の柔らかい鉛部分が、硬いジャケットで覆われている部分よりも先に獲物に接触し、衝撃で潰れることで、弾頭全体を変形させる役割を果たします。
実包全体が硬いジャケットで覆われた「フルメタルジャケット(FMJ)」が変形しにくいのに対し、ソフトポイントは先端の鉛が潰れることでキノコ状に広がります。
ホローポイントと比較した場合、ソフトポイントの方が拡張の仕方がやや穏やかで、弾頭の原型が残りやすい傾向があります。これにより、筋肉や薄い骨を貫通しながら拡張していくため、獲物のより深部まで到達しやすいという特徴があります。
バーンズ弾頭・バリスティックチップなどの高性能弾頭
近年、狩猟用弾頭は著しく進化しており、「バーンズ弾頭(銅単体弾)」や「バリスティックチップ(樹脂先端弾)」といった高性能弾頭が主流になりつつあります。
これらは、従来の鉛コア弾頭の弱点を克服し、より高い精度と殺傷能力、環境性能を追求したものです。
従来のソフトポイントなどには、「着弾時に弾頭がバラバラに砕け、可食部に鉛の破片が飛散したり、遠距離での命中精度が出にくいといった課題がありました。
バーンズ弾頭(TSXなど)
「鉛」を一切使用せず、銅合金の塊から削り出して作られた弾頭(モノリシック・ブレット)です。先端はホローポイント形状になっており、着弾すると花びらのように割れて拡張します。
鉛を使用していないため、着弾時に弾頭が砕け散ることがなく、重量のほぼ100%を維持したまま獲物を貫通します。これにより可食部への鉛汚染を防ぎ、強力な威力を発揮します。
バリスティックチップ(Nosler Ballistic Tipなど)
ホローポイントの先端に、鋭利な「樹脂製チップ」を装着した弾頭です。
このチップは、飛行中は空気抵抗を減らして弾道性能を飛躍的に向上させ、獲物に着弾した瞬間にはクサビのように弾頭内部に打ち込まれ、内部から弾頭を強制的に拡張させる起爆剤として機能します。
フルメタルジャケットは狩猟では非推奨

フルメタルジャケット(FMJ)は、弾丸の全体(先端から底まで)が硬い金属ジャケットで完全に覆われた弾頭です。
これは主に軍用や射撃練習用であり、狩猟での使用は「非推奨」、あるいは地域や法律によっては「禁止」されています。
その理由は、FMJの構造的な特性にあります。FMJは、着弾時に変形するように設計されていないためです。獲物に命中しても弾頭は拡張せず、針のように体を貫通するだけになりがちです。
「軽い弾頭・重い弾頭」弾頭の重量による違い
同じ口径の実包であっても、様々な重量の弾頭が存在し、重量は弾道や初速、貫通力に影響します。
物理法則として、同じエネルギーで撃ち出す場合、弾頭が軽ければ初速は速く、弾道は低伸(まっすぐ飛ぶ)し、弾頭が重ければ初速は遅く、弾道は山なりになります。しかし、重い弾頭は風の影響を受けにくく、遠距離でのエネルギー保持力と貫通力に優れるという特性を持ちます。
例えば、シカ猟でポピュラーな「.308ウィンチェスター」という口径では、150グレイン(約9.7g)の軽い弾頭と、180グレイン(約11.7g)の重い弾頭がよく使われます。
150グレイン(軽い弾頭)
初速が速く、200m程度までなら弾道が非常にフラットです。そのため、距離の読み違えに強く、中距離までのシカ猟では非常に扱いやすいです。ただし、重い弾頭に比べると風に流されやすく、強靭な骨に対する貫通力はやや劣ります。
180グレイン(重い弾頭)
初速は遅めですが、重量があるため遠距離でのエネルギー保持率が高く、風にも強いです。また、運動量(質量×速度)が大きいため、イノシシやヒグマなどの大型獣の硬い骨や筋肉を撃ち抜く「貫通力」に優れています。
一般的に、「小型・中型の獲物、または中距離まで」なら軽めの弾頭が、「大型の獲物、または遠距離・強風時」なら重めの弾頭が適している、という傾向があります。
ただし、これは銃身のライフリングとの相性にも左右されます。
弾頭の保管・購入・法的注意点
弾頭、火薬、雷管、薬莢といった「実包の部品」の購入と保管には、完成品である実包と同様に、火薬類取締法に基づく厳格な手続きと管理が求められます。
物自体が危険物(火薬・雷管)であると共に、実包を製造(ハンドロード)するための構成品でもあるため、銃刀法・火薬類取締法の規制対象となります。したがって、無許可での購入や不適切な保管は、法律違反に問われます。
購入
完成品の「実包」を購入する場合
警察署(公安委員会)が発行する「猟銃用火薬類等譲受許可証(譲受証)」が必要です。
「弾頭」のみを購入する場合
弾頭は、一切火薬類が含まれていない「鉛の塊」若しくは「銅の塊」です。よって警察や関係団体からの火薬類譲受票は不要です。基本誰でも購入は可能なのですが、使用するための目的の関係で銃砲店によっては許可証提示(購入しようとする弾頭を使える銃を所持しているか、そもそも銃を所持している方か)を求める場合があります。
「火薬」や「雷管」を購入する場合
「実包」とは別の許可枠(火薬許可証内の「火薬」「雷管」の欄)が必要であり、購入・所持できる数量も厳密に定められています。
保管
火薬・雷管は、実包を保管する「装弾ロッカー(実包保管庫)」で、銃本体とは別に、厳重に施錠して保管する義務があります。弾頭は上記のとおり火薬類ではありませんので装弾ロッカーに保管は不要ですが、用心するに越したことはありません。
法的注意点(ハンドロード)
これらの部品を購入し、自分で実包を組み立てるハンドロードは、火薬類取締法に基づく「製造」行為にあたり、別途「火薬類製造許可」や「消費許可」などが必要となる場合があります。
安易なハンドロードは極めて危険であり、法律違反となるリスクも高いため、初心者は銃砲店で販売されている「完成実包」を使用してください。
ハンドロードをおこなう際は実包の構成部品となる火薬・雷管・弾頭が必要なのはもちろんですが、その部品を組み立てる為の専用機械(プレス等)が必要になっています。と実包を作成するための基礎知識も必要です。安易にご自身で解釈しようとせず、銃砲店にご相談ください。
まとめ

初心者が将来ライフル銃を所持する際、覚えておくべき選択の基本は以下の通りです。
- どれくらいの距離で、どんな大型獣を仕留めるか: ライフル実包もかなりの種類があります。大きくは薬莢の大きさ(容積)で火薬の充填量が決まりますので、小さい容積はパワーや弾道に劣りますが反動が少なく撃ちやすい、大きい容積はパワーや弾道に勝りますが反動が大きくなりがちです。
- 重量を選ぶ: 一般的なシカ猟(例:.308口径)なら、150グレイン前後の中量弾頭が良い。クマ等の危険動物には保険も含め、重たい弾頭がお勧め。
- セオリーに従う: 最も普及している「30口径(.308 Winなど)」の「ソフトポイント弾頭」は、あらゆる状況に対応しやすい組み合わせ。北海道での狩猟で使用する際はバーンズ製等の「銅弾」が必須。
今回は主にライフル弾頭について解説しましたが、獲物のサイズに合わせて弾頭の拡張性を変えるという考え方は、散弾銃用のスラッグ弾を選ぶ際にも共通する重要な視点です。
弾頭の知識を深めることは、良識あるハンターになるための必須条件です。不明な点は、必ず銃砲店や先輩ハンターに相談してください。
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