
これから自分の銃を持とうとする人で「最初はカモ猟でたくさん撃てる自動銃がいいかな」と考えていた矢先、周囲の先輩猟師や銃砲店から「最初は上下二連にしておけ」とアドバイスされる方は多いのではないでしょうか。
実はそのアドバイスには、安全面や技術向上において非常に合理的な理由があり、決して古い考えというわけではありません。
この記事では、なぜ初心者の最初の一挺に「上下二連散弾銃」が推奨されるのか、そのメリットと選び方を詳しく解説します。これから始まる狩猟・射撃ライフにおいて、自信を持ってこれと思える相棒に出会えるよう、ぜひ参考にしてください。
シーン別に見た上下二連散弾銃のメリット

上下二連散弾銃(以下、上下二連)は、その名の通り銃身が縦に2本並んだ構造の銃です。なぜこれが初心者にとって王道とされるのか、狩猟と競技のシーン別に解説します。
狩猟時に使用するメリット
狩猟において上下二連を使う最大のメリットは、「圧倒的な安全性」と「状況対応力の高さ」にあります。
日本の銃刀法および狩猟マナーにおいて、安全性は最優先事項です。上下二連は「元折れ式」という構造上、銃を折るだけで周囲に弾が入っていない・発射意思がないことを視覚的に合図することができます。これは、多人数で行うグループ猟(巻き狩り)などで活きてきます。
また、上下二連は2つの銃身に異なるチョークを設定して使い分けられるのも強みです。例えば、下の銃身には近くの獲物を狙うための「散開しやすいチョーク」、上の銃身には遠くを狙うための「集弾するチョーク」を入れておくことができます。
山を歩いている際、足元からキジが飛び出せば下の銃身で、遠くをカモが飛んでいけば上の銃身で、といった具合に、瞬時に切り替えて撃ち分けることが可能です。さらに、発砲後に空薬莢が銃内に残るため、山にゴミとなる薬莢を回収しやすいという点も、マナーを重視するハンターにとっては利点になります。
安全管理がしやすく、距離に応じた撃ち分けができる上下二連は、実猟の現場でも非常に実用的な選択肢と言えます。
クレー射撃で採用するメリット
クレー射撃のような競技でのスコアアップを目指すなら、構造的に命中精度を高めやすい上下二連が圧倒的に有利です。
クレー射撃について知りたい人はこちらの記事をご覧ください。
上下二連は、自動銃のように発射ガスを利用して次弾を装填する複雑な機構がないため、重量バランスが良く、銃を振る動作が安定します。また、機関部が短いために全長が短く、取り回しが良いのも特徴です。
実際にオリンピックや国体の射撃競技を見ても、選手はほとんどが上下二連を使用しています。「自動銃は3発撃てるから有利では?」と思うかもしれませんが、公式競技では「装填は2発まで」と決められています。
さらに、自動銃は発射の瞬間に遊底が動くため、微妙な衝撃や重心移動が発生しますが、上下二連はそのブレがありません「当てる」感覚を養い、射撃の腕を磨くためにも、最初の銃として上下二連を選べば間違いはありません。
(参考:ISSF Official Statutes, Rules and Regulations)
上下二連散弾銃の自動銃との比較

自動銃は「連射性能と反動軽減」に優れますが、上下二連はトラブルの少なさとメンテナンス性で勝るため、初心者には上下二連がおすすめです。
自動銃は複雑なメカニズムで次弾を装填するため、使用する弾との相性や汚れによって「回転不良(ジャム)」を起こすリスクがあります。一方、上下二連は構造がシンプルであるため、弾が出ないといった機械的なトラブルが極めて少ないという特徴があります。
両者の主な違いは以下の通りです。
| 項目 | 上下二連散弾銃 | 自動散弾銃 |
|---|---|---|
| 装弾数 | 2発 | 3発(弾倉2+薬室1) |
| 反動 | ダイレクトに来る | 機構が吸収するためマイルド |
| トラブル | 極めて少ない | ジャムのリスクあり |
| 掃除 | 銃身内を拭くだけで簡単 | 分解掃除が必要で手間がかかる |
| 薬莢 | 手元に残る | 勢いよく飛び出す |
道具へのこだわりが強くても、まずは射撃そのものに集中できる環境を作ることが上達への近道です。その意味で、故障知らずの上下二連は最良の選択と言えます。
購入前に押さえておくべき上下二連散弾銃ならではの特徴と注意点

上下二連を購入する前に、「発射の順番」とそれに伴う「銃身の特性」について理解しておく必要があります。
多くの上下二連散弾銃は基本的に、引き金を引くと「下の銃身 → 上の銃身」の順で発射されるように設計されています。これには力学的な理由があります。下の銃身の方が、射手の肩(=支点)に近い位置にあるため、発射時に銃身の跳ね上がりが少なくて済むのです。
この構造により、以下のような注意点があります。
- 下銃身の消耗が早い: 初弾だけ撃って終わるケースも多いため、下銃身やその撃針の方が早く消耗します。中古銃を選ぶ際は、下側の機関部が過度に摩耗していないかチェックが必要です。
- チョークのセッティング: 前述の通り、基本は下から発射されるため、狩猟では「下に広がるチョーク、上に絞ったチョーク」を入れるのがセオリーです。これを逆に覚えてしまうと、近距離で外し、遠距離で半矢にしてしまう可能性があります。
- 開閉レバーの操作: 構造上、右手の親指でレバーを操作して銃を折ります。左利き用モデルでない場合、左利きの射手には操作がしにくいことがあります。
「下から撃つのが基本」という特性を理解し、適切なメンテナンスとセッティングを行うことで性能を最大限に引き出すことができます。
用途に合わせた上下二連散弾銃の選び方

上下二連には大きく分けて「狩猟用(フィールド)」と「競技用」のモデルが存在します。見た目は似ていますが、設計思想が真逆なため、「狩猟メイン」か「射撃メイン」かによって、選ぶべきモデルが異なります。ここを曖昧にすると、後悔することになります。
具体的な選び方の基準は以下の通りです。
- 狩猟メインで山を歩きたい人:
「フィールドモデル」を選んでください。重量が軽量に作られており、長時間の山歩きでも疲れにくいです。ただし、軽い分だけ発射時の反動は強く感じます。スリングをつける金具がついているのも特徴です。 - 射撃場でスコアアップを目指したい人:
「競技用モデル」を選んでください。重量は重めですが、この重さが反動を吸収し、安定したスイングを生みます。これを山に持って行くと、重すぎて修行のようになってしまいます。 - 両方の用途で使いたい人:
「スポーティングモデル」という競技用より少し軽く、フィールド用より少し重い中間的なモデルを選ぶか、少し重めのフィールド銃にして射撃練習にも耐えうるものを選ぶのが良いでしょう。銃砲店で実際に構えてみて、少し重いと感じる程度が、実は反動とのバランスが良いこともあります。
自分がどのシーンで一番多く銃を使うかを想像してください。もし迷ったら、最初は汎用性の高いスポーティングモデルか、交換チョーク式のトラップ銃を検討し、銃砲店に相談することをおすすめします。
まとめ
本記事では、初心者が最初に選ぶべき銃として「上下二連散弾銃」を推奨する理由を解説しました。
- 狩猟では: 安全確認が容易で、信頼性が高く、距離に応じた撃ち分けが可能。
- 射撃では: 構造的にスイングが安定し、スコアアップに直結する。
- 自動銃と比較して: ジャムが少なく、メンテナンスが圧倒的に楽。
- 選び方: 「狩猟用」は軽く、「競技用」は重い。用途に合わせて選ぶことが重要。
自身の体格や主な用途をしっかりと見極め、銃砲店の店頭で上下二連の実物に触った上で最初の1挺を検討してみてください。
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