近年、環境問題や食文化への関心の高まりから、狩猟に注目が集まっています。しかし、「狩猟」と聞くと、どのような方法で行われるのか、どんな準備が必要なのか、疑問に感じる方も多いのではないでしょうか。
このガイドでは、狩猟の基本的な方法から、その対象となる鳥獣、使用する道具、そして狩猟免許の取得方法や猟友会の活用まで、狩猟を始める上で知っておきたい情報を網羅的に解説します。安全で適切な狩猟のために、ぜひ参考にしてください。
主な狩猟方法(猟法)の種類と比較
狩猟の方法は、大きく分けて猟銃、わな、網の3種類があります。それぞれに特徴があり、使用できる道具や捕獲対象、法的規制が異なります。
①猟銃による狩猟
銃器を用いた狩猟は、その種類と使用する弾によって多様な方法があります。
銃器の種類
猟銃は、発射方式によって「装薬銃」と「空気銃」に分類されます。
- 装薬銃(猟銃)
火薬が燃焼した際の推進力で弾丸を発射する銃の総称です。
- 散弾銃
粒状の散弾を発射する銃で、鳥類や小動物の狩猟によく使われます。銃身の構造によって、上下二連銃、水平二連銃、自動(装填式)銃、スライド式銃、ボルト式銃、複合銃、単発銃などがあります。
- ライフル銃
銃身にライフリング(螺旋状の溝)が切られており、単発の弾丸を正確に遠距離まで飛ばすことができます。主にシカやイノシシなどの大型獣の狩猟に用いられます。
- 空気銃
空気や炭酸ガスの圧力で弾丸を発射する銃です。スプリング式、ポンプ式、圧縮ガス式、プリチャージ式などがあります。
弾(実包)の種類
使用する銃器によって、異なる種類の実包(弾)が用いられます。
- 散弾銃用
粒状の散弾、単体の弾丸であるスラッグ実包、そして銃身に一部ライフリングがあるハーフライフル銃用のサボットスラッグ実包などがあります。その他、ゴム弾や花火弾の実包も存在します。狩猟用途で認められているのは12番以下のものです。
- ライフル銃用
ライフル実包を使用します。狩猟用途で認められているのは弾頭直径6㎜以上10.5㎜以下のものです。
- 空気銃用
空気銃弾を使用します。狩猟用途で認められているのは弾頭直径8㎜以下のものです。
実包の購入・使用について
火薬類取締法により、実包(装弾)、雷管、火薬などの譲渡(販売)や譲受(購入)は、都道府県公安委員会の許可が必要です。ただし、登録狩猟や有害鳥獣捕獲に使用する一定数量(ライフル弾50個を含む300個まで)の実包については、都道府県猟友会が交付する「猟銃用火薬類無許可譲受票」があれば許可なく購入できます。購入や使用はきちんと記録する義務があります。
②わなによる狩猟
わなは、鳥獣を閉じ込めたり、体の一部をくくったりして捕獲する猟具です。
法定猟具のわな
鳥獣保護管理法で定められている、使用が認められているわなは以下の4種類です。
くくりわな | 動物の足をくくり、身動きを取れなくするタイプのわなです。ひきずり型、はねあげ型、鳥居型、ピラミッド型、バネ式、筒式イタチ捕獲器など、様々な形状があります。 |
はこわな | 箱型の檻で、獲物を中に入れて閉じ込めるタイプです。 |
はこおとし | 高い場所から箱を落として獲物を捕獲するタイプです。 |
囲いわな(天井がないもの) | 広範囲を囲い込み、獲物を閉じ込めるわなで、天井がないのが特徴です。 |
使用が禁止されているわな
環境への影響や動物福祉の観点から、以下のわなは使用が禁止されています。
- とらばさみ
- おし(戸板や格子が落下するもの)
- もちわな(縄にモチを塗ったもの)
- はご(竹や木の枝にモチを塗ったもの)
③網による狩猟
網は、糸などで編まれたものを被せたり絡めとったりして鳥獣を捕獲する猟具です。
法定猟具の網
使用が認められている網は以下の4種類です。
むそう網 | 穂打ち、片むそう、双むそう、袖むそうなど、特定の形や使用方法を持つ網です。 |
はり網 | ウサギ網、谷切(やつきり)網、袋網など、地面や特定の場所に張り巡らせて使用する網です。 |
つき網 | 獲物を突き捕らえる網です。 |
なげ網 | 投げかけて獲物を捕らえる網です。 |
使用が禁止されている網は「かすみ網」
小型鳥類を大量に捕獲できるため、現在では使用だけでなく、所持と販売も禁止されています。
狩猟と猟犬
狩猟の世界で「一犬・二足・三鉄砲」という言葉があるように、猟犬は狩猟の成功を左右する非常に重要なパートナーです。優れた猟犬がいるかどうかで、狩猟の醍醐味や成果が大きく変わると言われています。
猟犬の役割
猟犬は、獲物を安全に、そして確実に捕らえるために不可欠な存在です。具体的には、以下のような役割を担います。
- 獲物の探索と追い出し
特に草むらに隠れたキジや、山岳地帯に生息するヤマドリなどを嗅覚で探し出し、ハンターの視界に入るように追い出します。
- 矢先の安全確認
猟犬が獲物を視認することで、ハンターは発砲前に安全を確認でき、誤射のリスクを減らすことができます。これは安全狩猟に直結する重要な要素です。
- 獲物の回収
水面に落ちたカモなどの水鳥や、草むらに倒れた獲物を探し出し、ハンターのもとへ持ち帰る役目を果たします。これは猟犬がいなければ非常に困難な作業です。
このように、猟犬は人・犬が一体となって狩猟を楽しむための良きパートナーであり、狩猟の効率と安全性を高める上で欠かせません。
猟犬の種類と特徴
「猟犬」とは、現在の狩猟(実猟)に使われたり、フィールド・トライアル(猟野競技会)に出場している犬種を指します。大きく鳥猟犬と獣猟犬に区分され、それぞれ対象とする獲物や狩猟方法に合わせて長年の品種改良が重ねられてきました。
鳥猟犬 | 主にキジ、ヤマドリ、コジュケイ、カモ類などの鳥類を対象とします。さらに細かく役割が分かれています。 |
獣猟犬 | 主にノウサギ、ユキウサギ、イノシシ、ニホンジカなどの獣類を対象とします。 |
猟犬における血統の重要性
猟犬は、特定の獲物や狩猟方法に特化して改良されてきた歴史があります。例えば、ペットとしても人気のダックスフントは、元々アナウサギを巣穴から追い出す目的で、あの短い脚の姿に改良されました。
このような背景から、猟犬においては血統書が非常に重視されます。安易な異犬種交配は、その犬種本来の狩猟能力を損なうだけでなく、人間への攻撃性などの悪癖を現出させる恐れがあるため、好ましくないとされています。
国内における狩猟対象
日本で狩猟が許可されている鳥獣は、「狩猟鳥獣」として26種の鳥類と20種の獣類、合計46種が指定されています。
これらは、資源としての利用価値、農林水産業への影響、個体数などを考慮して選定されています。
鳥類にはキジやヤマドリ、様々な種類のカモ、キジバト、カワウ、カラス類、ヒヨドリ、ムクドリ、スズメ類、ヤマシギ、タシギなどが含まれます。
獣類にはタヌキ、キツネ、アナグマ、ヒグマ、ツキノワグマ、ハクビシン、イノシシ、ニホンジカ、タイワンリス、ヌートリア、ノウサギなどが指定されています。
ノイヌ、ノネコ、シベリアイタチ、ミンク、アライグマ、タイワンリス、チョウセンシマリス、ヌートリアは外来種です。
一方で、オオバン、ドバト、ツグミ、ウズラ、ニホンザル、イタチ(メス)、ニホンリス、ムササビ、モモンガなどは狩猟対象ではありませんので注意が必要です。捕獲制限数が設けられている鳥獣もいます。
狩猟した動物はどうすればいいの?
狩猟で捕獲した動物は、その後の処理が重要です。主な選択肢は自家消費(ジビエとして食べる)か適切に処分するかのどちらかになります。
ジビエとして活用する場合、最も重要なのは衛生管理です。捕獲後すぐに血抜きと内臓の摘出を行い、速やかに冷却することで肉の品質を保ちます。
その後、適切な施設(自宅での自家消費用解体も含む)で解体し、必ず中心部まで十分に加熱してから食べましょう。E型肝炎ウイルスや寄生虫による食中毒のリスクがあるため、生食は絶対に避けてください。
処分する場合は、自治体の指示に従い、埋設や専用焼却炉での焼却など、環境に配慮した方法で処理します。獲物の放置は許されません。
いずれの方法にしても、鳥獣保護管理法や食品衛生法など関連法規を遵守し、安全かつ適切に処理することが狩猟者の責務です。
狩猟を行うには免許が必要
日本で合法的に狩猟を行うためには、いくつかのステップを踏む必要があります。ここでは、狩猟免許の取得から実際に狩猟を始めるまでの流れと、それぞれの費用について詳しく解説します。
狩猟免許の取得が第一歩
狩猟を行う上で最も重要となるのが、住所地の都道府県知事が発行する「狩猟免許」の取得です。この免許は全国どこでも有効で、使用できる猟具の種類によって以下の4種類に分かれています。
網猟免許 | むそう網、はり網、つき網、なげ網などの網を使用できます。 |
わな猟免許 | くくりわな、はこわな、はこおとし、囲いわななどのわなを使用できます。 |
第一種銃猟免許 | ライフル銃や散弾銃などの装薬銃が使用でき、手続きを行えば空気銃も使用できます。 |
第二種銃猟免許 | 空気銃のみ使用できます。 |
狩猟免許試験の概要と費用
狩猟免許を取得するには、都道府県知事が実施する「狩猟免許試験」に合格する必要があります。試験は適性、技能、知識の3つの項目で評価されます。
- 申請方法
所定の申請書に加えて、写真、医師の診断書、返信用封筒などが必要です。
- 試験の開催
各都道府県で年に数回開催されます。定員制の場所も多いので、早めの申し込みがおすすめです。
- 事前講習会
特に猟銃免許の場合、実際の銃に触れる機会が少ないため、地元猟友会が開催する「事前講習会」への参加が強く推奨されます。この講習会では、ベテランの猟師が狩猟に関する知識やマナー、銃の取り扱い方、わなや網の設置方法などを模擬銃や実際の猟具を使って教えてくれます。受講費用は数千円程度が一般的です。
- 申請手数料
5,200円(再受験の場合は3,900円)。
- 免許の有効期間
初めての狩猟免許の有効期間は、試験合格から約3年間(受験から3年を経過した日の属する年の9月14日まで)です。その後は3年ごとに更新が必要で、手数料は2,900円です。
銃猟を行う場合は「銃砲所持許可」も必要
網猟やわな猟は狩猟免許の取得のみで始められますが、銃猟を行う場合は、狩猟免許に加えて、都道府県公安委員会から「銃刀法に基づく猟銃の銃砲所持許可」を銃1本ごとに取得する必要があります。この許可なく銃を所持することはできません。
狩猟デビューするための準備:免許取得から実猟まで
狩猟免許を取得し、銃猟の場合は銃砲所持許可も手に入れ、必要な猟具や服装も揃え、狩猟者登録を済ませれば、いよいよ憧れの狩猟デビューが見えてきます。
多くの道府県では、11月15日から2月末までの狩猟期間中に実際の猟を行うことができます。しかし、ただ準備を整えるだけでは不十分です。安全かつ効果的に狩猟を楽しむために、さらに踏み込んだ準備と心構えが必要です。
狩猟場所の選定と土地への配慮
まず、狩猟ができる場所には制限があります。鳥獣保護区、禁猟区、休猟区、国立・国定公園の特別保護地区はもちろん、公道、住宅周辺、公園などでの狩猟は厳しく禁止されています。狩猟に出かける前に、必ず狩猟可能な場所かどうかを確認しましょう。
また、日本の野生鳥獣は「無主物」とされ、その土地の所有者に獲物を捕獲する許可を得る必要はありませんが、他人の土地に立ち入る場合は、原則として土地所有者の承諾が必要です。無断での立ち入りはトラブルの原因となるため、事前に確認と許可を得ることが重要です。
実践的な知識と技能の習得
狩猟免許の取得は第一歩に過ぎません。実際に野生鳥獣を捕獲するには、現場での実践的な知識と技能が不可欠です。
- わな・網猟
時期や地域の自然環境に応じた仕掛け方、鳥獣の行動パターンや獣道の見分け方などを学ぶ必要があります。
- 銃猟
鳥獣の追い出し方や、安全な発砲のための判断力、銃の取り扱いに関する深い知識が求められます。
これらの知識は、座学だけでは身につきません。実際に現場に足を運び、経験を積むことが何よりも大切です。
先輩ハンターに学び、猟友会を活用しよう
実際の狩猟は決して簡単なものではなく、事故防止には細心の注意が必要です。特に初心者の方は、ベテランの先輩猟師の指導を受け、できれば一緒に猟場に出かけることを強くおすすめします。
身近にそのような先輩がいない場合でも心配ありません。各地の猟友会では、新人猟師向けの講習会を開催し、狩猟の仕方やポイントを伝授しています。また、巻き狩りのような集団・チームでの狩猟に参加することで、実際の狩猟を実践的に学ぶことができます。
猟友会に加入するメリットは、共済保険への加入や各種手続きの代行だけでなく、何よりも狩猟の先輩や仲間と出会えることです。共に知識や経験を深め、安全で充実した狩猟ライフを送るための大きな支えとなるでしょう。
狩猟デビューは、多くの学びと経験が必要な道のりです。しかし、適切な準備と心構えがあれば、自然との共生の中で得られるかけがえのない体験があなたを待っています。ぜひ、一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。
まとめ
この記事では、狩猟の主な方法である猟銃、わな、網の種類と、それぞれの具体的な道具について解説しました。
また、狩猟犬の役割や、日本で狩猟が許可されている46種の狩猟鳥獣についてもご紹介しています。捕獲した獲物の衛生的な処理方法や、狩猟免許の取得から「狩猟者登録」、さらには銃猟における「銃砲所持許可」といった一連の手続き、そして安全な狩猟デビューのための猟友会活用の重要性もお伝えしました。
狩猟は奥深く、多くの知識と経験を要しますが、適切な準備と心構えがあれば、自然と共生する素晴らしい体験となるでしょう。
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