ジビエ肉に潜む危険性:安全に楽しむための知識と調理法

近年、地域資源の有効活用や食の多様性から人気が高まっているジビエ肉。しかし、野生動物の肉であるジビエには、一般的な家畜肉とは異なる特有のリスクが存在します。

食中毒や感染症を防ぎ、安全にジビエ料理を楽しむためには、その危険性を正しく理解し、適切な下準備と調理を行うことが不可欠です。

ジビエ肉に潜む主なリスク

ジビエ肉には、以下のような病原体や寄生虫が潜んでいる可能性があります。

サルコシスティス(住肉胞子虫)鹿肉に潜む可能性があり、嘔吐、下痢、腹痛などの症状を引き起こします。
旋毛虫(トリヒナ)熊肉にいることがあり、不十分な加熱で感染すると、小腸に寄生し、後に幼虫が全身の筋肉に移行して発熱、筋肉痛、まぶたの腫れなどを引き起こすことがあります。潜伏期間が長く、原因特定が難しいケースもあります。
肺吸虫イノシシ肉に潜む可能性があり、せき、たん、胸痛、呼吸困難といった呼吸器症状が特徴的です。脳や皮下に感染すると重症化することもあります。
トキソプラズマ鴨肉に潜んでいることがあり、多くの場合は無症状ですが、妊娠中に感染すると母子感染のリスクがあり、胎児に影響を及ぼす可能性があります。

動物ごとの寄生虫リスク

鹿肉の寄生虫

鹿肉の筋肉の内側にはサルコシスティス(住肉胞子虫)と呼ばれる寄生虫がおり、嘔吐や下痢、腹痛などの症状を引き起こします。

悪化した際には、重症熱性血小板減少症候群や腸管出血性大腸菌感染症などを発症し、最悪の場合死に至るケースもあるほどです。

熊肉の寄生虫

熊には旋毛虫(せんもうちゅう)別名トリヒナと呼ばれる寄生虫がいることがあります。この寄生虫は人体にも有害で、不十分な処置で食べてしまうと感染し、腹痛や筋肉痛、むくみなどの症状が現れることがあります。

また、メスの旋毛虫が体に入り込むと、最悪の場合卵を産み血流に乗って全身の筋肉に到達して幼虫が寄生することもあるため、正しく調理し感染を避けましょう。

イノシシ肉の寄生虫

イノシシ肉には「肺吸虫」という寄生虫が潜んでいることがあります。

肺吸虫は「せき、たん、胸痛、呼吸困難、発熱、腹痛」などの症状があり、呼吸に関する症状が特徴的です。時には脳や皮下に感染し重症化することで最悪の場合死にいたる可能性もあります。

症状が出るまでに数週間以上かかることもあるため、原因がイノシシ肉だと気付きにくい点にも注意が必要です。

鴨肉の寄生虫

鴨肉には「トキソプラズマ」という寄生虫が潜んでいることがあります。

トキソプラズマの症状としてはリンパの腫れや、発熱、頭痛などがありますが多くの場合は無症状です。

ただし、妊娠中の人は母子感染の危険があるため特に注意が必要です。本人の体は無症状であっても、お腹の赤ちゃんが先天性トキソプラズマ症に感染することもあります。

ジビエ肉を安全に食べるための対策

ジビエ肉を安全に美味しく楽しむためには、以下の点を徹底することが重要です。

1. 十分な加熱処理を徹底する

これが最も重要なポイントです。生食やレアでの喫食は絶対に避けましょう。

農林水産省のガイドラインでは、肉の中心部を75℃で1分以上加熱することが推奨されています。調理中に中心部の温度を測るのが理想的です。温度が低い場合は、その分長く加熱する必要があります(例:65℃で15分)。

表面だけが焼けていても、内部までしっかり火が通っていないケースが多いため注意が必要です。

2. 調理器具の衛生管理を徹底する

ジビエ肉を扱った包丁やまな板などの調理器具には、病原体が付着している可能性があります。

  • 使い分け

ジビエ肉を切る際は、他の食材(野菜など)とは異なる専用の包丁やまな板を使用しましょう。

  • 洗浄・消毒

使用後は、83℃以上の熱湯、または200ppm以上の次亜塩素酸ナトリウムで徹底的に洗浄・消毒することが推奨されます。

3. 適切な仕入れと下準備を行う

  • 信頼できるルートからの仕入れ

食肉処理業の許可を受けた施設から仕入れるようにしましょう。これらの施設では、衛生管理基準が定められており、リスクを低減するための処理が行われています。

  • 熟成とトリミング

捕獲後の肉を熟成させる場合、真空パックに入れ、氷を敷き詰めるなどして低温下で管理し、雑菌の繁殖を抑えることが重要です。また、外側の変色した部分(腐敗箇所)は必ずトリミング(切り取り)しましょう。異臭がしたり、緑色に変色している場合は、腐敗している可能性が高いので喫食を避けてください。

  • 冷凍保存と解凍

熟成後の肉は、早めに冷凍保存することで細菌繁殖を防げます。解凍する際は、4℃以下の冷蔵庫内で時間をかけて行うのが鉄則です。常温での自然解凍は雑菌が繁殖しやすいため、絶対に避けましょう。

まとめ

ジビエ肉は、自然の恵みを直接いただく魅力的な食材ですが、E型肝炎ウイルスや多様な寄生虫など、家畜肉にはないリスクを伴います。

これらの危険を回避し、安全に美味しく楽しむためには、生食を避け、肉の中心部まで75℃で1分以上加熱することが最も重要です。さらに、調理器具の適切な消毒や、信頼できるルートからの仕入れ、適切な下準備といった衛生管理の徹底も欠かせません。これらの知識と手順を確実に実践することで、ジビエ料理の醍醐味を存分に味わうことができるでしょう。

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